ダイオキシン類(PCDD/DFs及びコプラナーPCBs)は、今日知られている化学物質の中でも毒性が強く、しかも環境中で安定で生態系を通じ高次生物に濃縮され、その汚染実態とゆくえについて社会的関心が高い。ダイオキシン類は人間活動によって非意図的に生成することが明らかにされており、特にわが国の場合、農薬中に不純物として含まれていたダイオキシン類の農薬散布に伴う農耕地汚染が顕著で欧米に見られない特異的な汚染状況を呈しており、わが国独自の視点に立脚した研究を展開する必要がある。本年度は、陸域生態系の高次生物である野生鳥類を対象に汚染実態の把握と蓄積の特徴について検討した。その結果、森林棲の猛禽類より高濃度検出され、大気経由で植物葉に吸着など森林生態系に取り込まれたダイオキシン類が食物連鎖を通して小動物に移行し最終的に高次捕食者に生物濃縮されるという汚染経路が考えられた。PCDD/DFs同族体及び異性体組成は種特異的で、棲息環境や食性などの生態学的要因によって異なった。ダイオキシン類のうちコプラナーPCBsの濃度レベルは、肉食性>魚食性>雑食性の順であった。特に、残留性を有し然も毒性の強い化合物が生態系の高次生物種へと次第に濃縮される傾向が明らかとなった。ダイオキシン類のうちTEQに寄与するPCDD/Fsは陸域環境からの供給が大きく、一方コプラナーPCBsは水圏生態系からの供給か大きいことが推定された。得られたデータをクラスター分析によって解析した結果、PCDD/Fs残留組成とそのTEQ寄与は、鳥種の生態学的特性と密接に関係していることが示唆された。わが国の陸棲野生鳥類のダイオキシン類汚染濃度は、これまで報告されている欧米を中心とする諸外国のデータとほぼ同程度であった。しかしながら、わが国の肉食性の鳥種では比較的高い濃度傾向を示した。このことは、汚染ルートに関して依然として不明な点があることを意味しており、今後さらに検討が望まれる。
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