研究概要 |
ダイオキシン類は、世界保健機構(WHO)によってヒトへの毒性影響を考慮した1日体重kgあたりの摂取量が極低レベル(1〜4pgTEQ/kg・日)に設定され、今日知られている環境汚染物質の中でも特筆すべき強毒性化合物と云え、社会的にも汚染実態と今後の推移に関する関心が高い。ダイオキシン類は都市ゴミ焼却施設における廃棄物の燃焼による生成の寄与が大きいことが知られ、近年その寄与は減少傾向にある。しかしながら我が国の場合、農薬中に不純物として含まれていたダイオキシン類による農耕地土壌汚染が顕著であり、これは欧米に見られない特異的な状況であることから、我が国独自の視点に立脚した研究を展開する必要がある。本年度は、農耕地からの土壌流失に伴うダイオキシン類の流出とヒト汚染を評価するために日本人血中のダイオキシン類について検討した。農耕地からのダイオキシン類の流出に関する検討の結果、農耕地土壌から嘗て散布された農薬CNP中に不純物として含まれていた1,3,6,8-TCDD,1,3,7,9-TCDDが比較的高い濃度で検出された。PCDFs異性体に関しても、農薬由来と考えられる2,3,4,8-TCDFが検出された。水田土壌と河川底質中のPCDD/DFsは上流から下流域までほとんど同じ組成を示した。以上の結果は、河川底質中のダイオキシン類の多くは農耕地からの流入によるもので、ダイオキシン類が河川上流から下流域へ広く拡散していることを示唆している。そこで、河川水中のダイオキシン類濃度と土壌粒子数との関係について検討した。その結果、水田から河川に流出する土壌粒子のうち、粒子径5μm以下の細かい粒子にダイオキシン類は吸着・付着した状態で存在し、河川へ流出するとともに一部は河川底へ沈降し、河川上流域から下流域まで広く拡散、流亡することが考えられた。さらに稲作終了後、水田は秋季から春季にかけて乾燥するが、冬季の季節風による土壌粒子のまきあげによる大気拡散も考えられる。次に日本人のヒト血液に関する検討の結果、PCDDs,PCDFs及びCo-PCBsが58-930,7.4-37及び3,100-23,000pg/g脂肪重、検出された。TEQ値では、7.0-46pg/g脂肪重であった。ヒト血液から検出された化合物は濃度が高い順に、1,2,3,7,8-PCDD次に2,3,4,7,8-PCDFであり、農薬中に不純物として含まれて農作物汚染を引き起こしている化合物はヒト体内で代謝分解していることが推定された。統計分析の結果、魚を多食する人の血中ダイオキシン類濃度は比較的高い傾向を示し、さらに年齢との相関も見られ、ヒト体内における残留蓄積性を示した。
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