環境中での鉛の動態解析を解析するため、同位体組成を標識とした動態解析が行われているが、前処理を省略することでより簡便な測定が可能となる。そこで二次イオン質量分析(SIMS)さらにレザーアブレーションICP-MS(LA/ICP-MS)による環境固体試料中の鉛同位体比の直接分析法を開発するために、今年度は測定条件の検討を主に行った。環境試料では、鉛含有量や共存元素、試料採集に長期間必要など種々の問題があるが、主にこれらの問題点を解決するための検討を行った。 1.現在継続中のSIMSによる測定については、絶縁物試料のため、電荷蓄積を防止するためにグラファイト添加法を採用してきたが、濃度の低い試料中の同位体比をより正確に測定するためにエレクトロンスプレー法について再度検討を行った。鉛が偏在した測定点においてはかなり精度よく測定が可能であったが定常的な測定を行うために、試料の調製法など一層の検討を必要とする。 2.LA/ICP-MSについては、まず硫化鉛をグラファイトと混合した試料で測定条件の最適化をはかった。引き続き環境試料の測定について検討した。環境試料の測定においては、(1)鉛濃度が小さいこと(2)種々の共存元素が存在することなどが問題となる。そこでレーザー照射位置を変化させアブレート量を増加させた。しかし、鉛濃度が小さくなるにつれ、LA/ICP-MSで測定した鉛同位体比が大きくなる傾向を示したが、濃度との相関が見られた。また、共存元素について、大気中に存在する主要な元素について測定したところ、影響は見られなかった。そこで、環境試料中の鉛濃度を求めることにより、測定値を補正することが可能ではないかとの方向を見出した。今後、環境試料中の鉛濃度を直接定量する方法を検討した後、試料中の鉛濃度による同位体比の補正法を決定し実試料に応用していく予定である。
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