現在、国内外で使用されている殺菌剤・殺虫剤などの農薬の中で有機りん系農薬は大きな割合を占め、地球温暖化の進行に伴い、今後益々使用量が増加すると考えられる。しかし、ヒトや野生動物がこれら農薬類に曝露されても、典型的な急性毒性症状を示さない程度の曝露の場合、大きな個体差に影響され、曝露の有無さえ判定することが難しいと考えられる。本研究では、有機りん系農薬による曝露の有無を、個体差に影響されることなく判定できる新たなバイオモニタリング法の開発を目的とした。 本研究では、国内の河川・湖沼などの野外調査によく用いられるコイを実験動物に用いた。養殖場から購入したコイの各組織におけるアセチルコリンエステラーゼ、ブチリルコリンエステラーゼの各酵素活性分布を調べた結果、いずれの組織においても前者の比活性が後者の比活性より高いこと、アセチルコリンエステラーゼの比活性は、脳が一番高く、ついで筋組織が高いことが明らかとなった。全コリンエステラーゼ活性に占めるアセチルコリンエステラーゼ活性の割合と組織総重量を考慮して、筋組織からアセチルコリンエステラーゼを精製した。筋組織では、本酵素は膜に結合していることが示されたことから、高濃度塩類存在下で膜から本酵素を可溶化し、基質アナログ化合物をリガンドとして用いたアフィニティクロマトグラフイー法により本酵素を均一に精製し、精製酵素標品の特徴解析を行った。また、国内外で汎用されている有機りん系農薬類が本酵素の活性に及ぼす阻害作用について詳細に検討した。なお、8ヶ月間かけて行った4回の精製で得られた酵素量は数百μgと少量であり、本酵素に対する特異抗体の作成を本研究期間内で達成することはできなかった。
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