湖沼のプランクトン群集に及ぼす温暖化影響の実験的解析

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14580567
• 研究機関: 信州大学
• 研究代表者: 花里 孝幸 信州大学, 山地水環境教育研究センター, 教授 (60142105)
• キーワード: 温暖化 / 湖沼生態系 / 動物プランクトン / 低温 / 餌密度 / 個体群動態

研究概要

大型ミジンコ、Daphnia galeataの棲息する長野県の木崎湖、美鈴湖、田溝池において、Daphnia個体群の冬の動態を調べた。結氷しなかった木崎湖と、結氷した美鈴湖でDaphniaの自由遊泳個体は冬期間も水中に棲息することが確認された。このことから、冬の低温はDaphnia固体群には致命的な影響を与えないことがわかった。しかし、冬のDaphnia個体はほとんど抱卵していないことから、冬期間は個体群の再生産力は極めて低い状態にあることがわかった。Daphniaは低温低餌密度で飼育されると再生産を行わずに長期間生存し続け、温度と餌密度が上昇すると直ぐに再生産を開始することが室内実験から示された。このことから、Daphniaは冬期間は活性を落として自由遊泳個体で生き延び、春になると急に再生産を開始して個体群形成を行うという戦略をとっていることが示唆された。もし地球温暖化により湖の冬期の水温が上昇すると、Daphniaの越冬戦略に狂いが生じる可能性が考えられる。
野外調査で諏訪には4種類のケンミジンコが春から秋にかけて遷移し、夏にはEodiaptomusが優占し、春先にはAcanthocyclopsが優占することがわかった。水温を変えたメソコスム実験では、Acanthocyclopsは夏の高温に弱いことが示され、このケンミジンコが夏に姿を消すのは水温が直接的に影響を与えていることが示唆された。一方、春先に姿を見せないEodiaptomusは、必ずしも生理的に低温を苦手としているわけではないことが示され、春季のケンミジンコ群集の種組成は、水温が生物間相互作用に影響を与え、間接的に群集組成を決めているものと考えられた。水温変化は、直接的、間接的にプランクトン群集に影響を与えるものと考えられ、それを評価することが、生物群集への温暖化影響を考える上で重要であると結論づけられた。

研究成果

• [文献書誌] Chang, K.-H., T.Hanazato: "Seasonal and spatial distribution of two Bosmina species in Lake Suwa, Japan : its relation to the predator Leptodora"Limnology. 4. 47-52 (2003)
• [文献書誌] Chang, K.-H., T.Hanazato: "Vulnerability of cladoceran species to predation by the copepod Mesocyclops : laboratory observations on the behavioral interactions"Freshwater Biology. 48. 476-484 (2003)
• [文献書誌] Chang, K.-H., T.Hanazato: "Seasonal and reciprocal succession and cyclomorphosis of two Bosmina species co-existing in a lake : their relationship with predators"Journal of Plankton Research. 25. 141-150 (2003)
• [文献書誌] 花里孝幸: "捕食者はカイロモンを介してミジンコの個体群動態を制御する:捕食者の間接影響"日本プランクトン学会誌. 50. 123-127 (2003)
• [文献書誌] 花里孝幸: "温暖化と湖の環境:水温上昇が湖水環境に与える影響"FRONT. 2003年10月. 52-53 (2003)
• [文献書誌] 花里孝幸: "湖における氷のはたらき:氷に注目して温暖化影響を考える"FRONT. 2003年11月号. 52-53 (2003)
• [文献書誌] 花木啓祐, 寶馨, 花里孝幸 ほか: "第4章:水文・水資源と水環境への影響.P.181-219.(原沢英夫・西岡秀三;編)地球温暖化と日本:自然・人への影響予測"古今書院. 411 (2003)