大型ミジンコ、Daphnia galeataの棲息する長野県の木崎湖、美鈴湖、田溝池において、Daphnia個体群の冬の動態を調べた。結氷しなかった木崎湖と、結氷した美鈴湖でDaphniaの自由遊泳個体は冬期間も水中に棲息することが確認された。このことから、冬の低温はDaphnia個体群には致命的な影響を与えないことがわかった。しかし、冬のDaphnia個体はほとんど抱卵していないことから、冬期間は個体群の再生産力は極めて低い状態にあることがわかった。Daphniaは低温低餌密度で飼育されると再生産を行わずに長期間生存し続け、温度と餌密度が上昇すると直ぐに再生産を開始することが室内実験から示された。このことから、Daphniaは冬期間は活性を落として自由遊泳個体で生き延び、春になると急に再生産を開始して個体群形成を行うという戦略をとっていることが示唆された。もし地球温暖化により湖の冬期の水温が上昇すると、Daphniaの越冬戦略に狂いが生じる可能性が考えられる。 野外調査で諏訪には4種類のケンミジンコが春から秋にかけて遷移し、夏にはEodiaptomusが優占し、春先にはAcanthocyclopsが優占することがわかった。水温を変えたメソコスム実験では、Acanthocyclopsは夏の高温に弱いことが示され、このケンミジンコが夏に姿を消すのは水温が直接的に影響を与えていることが示唆された。一方、春先に姿を見せないEodiaptomusは、必ずしも生理的に低温を苦手としているわけではないことが示され、春季のケンミジンコ群集の種組成は、水温が生物間相互作用に影響を与え、間接的に群集組成を決めているものと考えられた。水温変化は、直接的、間接的にプランクトン群集に影響を与えるものと考えられ、それを評価することが、生物群集への温暖化影響を考える上で重要であると結論づけられた。
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