今年度は以下の知見を得た。 正常ヒト二倍体細胞に放射線を照射後、BRCA1蛋白質に対する特異的抗体によりウェスタンブロット解析を行うと、BRCA1蛋白質の検出されるバンドが上方にシフトした。この結果は、多くのリン酸化蛋白質がリン酸化を受けたときに泳動度が低減して起こるシフトと同様であるため、BRCA1蛋白質も放射線照射後リン酸化を受けることが予想される。とりわけ、上方への大幅なシフトが見られることから複数の箇所でリン酸化を受けることが予想された。いっぽう、BRCA1蛋白質は放射線照射後も放射線照射前と同様に中心体に局在する。BRCA1蛋白質が放射線照射後に中心体の機能を制御するのであれば、中心体に局在するBRCA1蛋白質も放射線照射後にリン酸化を受けその機能が変化するはずである。これまでに、BRCA1蛋白質のリン酸化にはATMおよびATRが関与しているとされることから、放射線照射後に活性化されるATM蛋白質が中心体に局在しておりそこで放射線照射後の活性化が起こると予想される。最近、普段多量体で存在しているATMは、放射線照射後に1981番目のセリンを自己リン酸化して活性化することが明らかにされた。そこで、1981番目のセリンがリン酸化されたATMに特異的な抗体を用いて蛍光染色法によりその局在性を検討したところ、放射線照射後にリン酸化ATMが核内で多数の微細な斑点(フォーカス)を形成することが明らかになった。さらに、核内だけでなく、中心体にもリン酸化ATMが存在することが観察された。リン酸化ATMの中心体への局在は、分裂期でも確認され、間期の中心体だけでなく分裂極にも存在することが確認された。以上の結果から、細胞核内だけでなく中心体においてもATMによるBRCA1蛋白質のリン酸化が放射線照射後の中心体制御に何らかの役割を果たしていることを示唆している。
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