研究概要 |
本研究では、BPAをモデル化合物として、その塩素置換体の乳癌発生への影響を解毒代謝の観点から明らかにすることを目的とした。本年度は,MCF-7乳がん細胞を用いた増殖試験とSDラットを用いた子宮肥大試験を行い,BPA塩素置換体のエストロゲン様活性をBPAのそれと比較検討した.さらに,肝臓でエストロゲンの代謝に関わるCYP1A2およびUGT2B1の遺伝子発現への影響についても検討した.MCF-7乳がん細胞の増殖試験において,10^<-7>〜10^<-9>Mの濃度で,3-C1BPAは,BPAより強い増殖作用を示した.子宮肥大試験では,7週齢の雌性SDラットに植物性エストロゲンを含まない飼料を与え,卵巣摘出を行い,それより一ヶ月後にBPAとその塩素置換体をそれぞれ3日間反復皮下投与し,子宮重量の測定とBrdU免疫染色を行った.その結果,いずれの場合も投与量依存的に子宮重量が増加し,有意に子宮内膜面積が増大し,BrdU標識細胞数も増加した.(本研究結果については第32回日本環境変異原学会にて発表した.)一方,6週齢の雄性ICRマウスに,BPAとその塩素置換体を連続二週間経口投与した後,肝臓を摘出し,RT-PCR法を用いてCYP1A2およびUGT2B1の遺伝子発現を調べた.BPAはいずれの遺伝子発現に対しても影響を不さなかったが,3-C1BPAは,UGT2B1遺伝子発現を有意に抑制し,CYP1A2遺伝子発現に対しても同様な傾向を示した.以上の結果から,3-C1BPAは,in vivoでエストロゲン様活性を示し,また,エストロゲンの解毒代謝を撹乱し,エストロゲン作用に影響をもたらして乳癌発生に影響を与える可能性が考えられた.
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