C3HマウスにFLVを感染きせ、1週後3Gyのγ線を全身照射すると、造血器系の細胞とくに赤芽球系の細胞に著明なアポトーシスが誘導され、また照射後約2週の経過でマウスは貧血を起こして死亡する。ところが、DBA/2マウスで同じことを行ってもアポトーシスの増強はほとんど起こらず、この現象についてはマウスの系統差が著しい。そこでC3Hマウス以外の系統のマウスではFLV感染によるアポトーシスの増強作用はないのかどうかを詳細に検討したところ、DBA/2、BALB/c、C57BL/6、B10、B10BRマウスなど等のマウスではこの現象が起こらないのに対し、C3H、CBAマウスなどFv-5^aの遺伝子を持つマウスではアポトーシスの増強が起こることがわかった。FLV+TBIによって著明なアポトーシスを起こしたC3Hマウスの骨髄細胞ではp53タンパクの発現増強が起こっていること、その際、p53蛋白のSer18のリン酸化が特異的に起こっていることがわかった。また、DNA損傷後にp53の下流で作用すると考えられるp21やBaxといった遺伝子のmRNAレベルでの発現増強が認められ、アポトーシスの増強はp53活性化のレベルでの出来事であることが明らかとなった。DNA損傷後のp53関連アポトーシス経路中、その上流で活性化制御を行っている可能性のあるものとしてATM遺伝子やDNA-PK遺伝子について、C3HマウスバックグランドのATM-/-ノックアウトマウスおよびDNA-PKに機能欠損を伴うSCIDマウスについて同様の実験を行ったところ、どちらのマウスでもアポトーシスの増強効果ははっきりしなくなり、この現象にはATM遺伝子とDNA-PK遺伝子何れもが必要であることが示唆された。一方、生き死にに対する増強効果はいずれのマウスでも観察され、アポトーシスの結果とは異なることから、生き死にへの増強効果にはアポトーシス以外の別の要因が含まれる可能性が示唆された。現在さらに詳しい解析を加えている。
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