海洋の石油汚染を除去・修復するために有用な重油分解菌を、沿岸域に分布するムラサキイガイの内蔵から単離することを試みた。その結果、これまでに、富山湾沿岸域の2漁港(四方、経田)で採取したムラサキイガイから、4種類の重油分解菌を単離することができた。また、ムラサキイガイが生息する周辺の油膜海水を採取し、そこからも重油分解菌の単離を試みたところ、3種類の菌が単離できた。単離された分解菌はすべて、重油を乳化する能力を持つことが判った。最適増殖温度を調べたところ、すべての菌のそれは20℃〜30℃であった。また、重油を含んだ培地中での方が重油を含まない培地中でのものより増殖速度が速く、平衡に達した際の菌体密度も約10倍高かった。この結果から、分解菌は重油成分を資化していることが強く示唆された。これらの分解菌の種の同定を、16S rRNA遺伝子の塩基配列と菌体成分のSDS-ゲル電気泳動パターンから同定したところ、すべてAlcanivorax属となった。しかし、各菌の間でゲル電気泳動パターンが少しずつ異なっていたことから、同属ではあっても異なる種または種内変異である可能性が考えられた。これらの菌を、光学顕微鏡及び透過型電子顕微鏡で観察したところ、運動性の無い、体長約1-2μmの桿菌であった。さらに7日間での重油の分解率を重油の乾燥重量の変化で調べたところ、海水から単離した菌は約10%以下であったのに対し、イガイ消化腺から単離した菌では約10〜30%と高かった。以上の結果より、ムラサキイガイは、周辺海水から消化腺に取り入れた重油分解菌を利用して、海洋の石油汚染から自身を防御する機構を持っている可能性が考えられた。しかし、重油分解菌との共生関係が維持されているかどうかについては、更なる研究が必要であると思われた。
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