研究概要 |
生物多様性の保全は、生物多様性国家戦略で指摘されているように、自然環境保全の大きな柱の一つである。生物多様性の保全のためには、基本的には各種レッドリストに掲載されているような絶滅の恐れがある種の生育地を改変せず、現状のまま維持すべきである。しかし、人間の経済活動は、多かれ少なかれ、必ず自然環境の破壊を伴う。やむを得ず開発を行う場合、その種に対する影響を最小限にとどめるためには、個体群の遺伝的特性をもとに定量的な影響評価を行う必要がある。それを行う際,対象とされる植物集団の遺伝的状況を明らかにする必要がある。そこで申請者らは、秋の七草の一つに数えられ、河川敷の植生の基本的構成種でありながら近年その数が激減し絶滅危惧種にあげられるフジバカマと,愛知県を中心に局所的に分布しているシデコブシとその近縁種を対象とし,現代用いられている一般的な分子マーカーによる集団構造解析法をすべて用いて調査し、日本国内のフジバカマ集団の遺伝子多様度を明らかにするとともに、得られた分子データと申請者の行った過去の調査から保全のための共通分子集団解析マニュアルの創生を目指している。 14年度フジバカマは中部地方では愛知県木曽川流域,北陸地方では富山県付近,関東地方では,渡良瀬遊水池およびその周辺でサンプリングを行った。シデコブシについては,以前サンプリングしたものを用いた。基本的に植物材料は20個体から一枚ずつ葉を採集して研究室に持ち帰り、10程度の酵素種についてアロザイム多型解析を行った。その結果,シデコブシは集団内および集団間の分化が大きかった。それに対して,フジバカマは,集団内の変異が小さかった。シデコブシは,15年度に近縁種であるコブシおよびキタコブシのサンプリングを行う予定である。また、各集団から採集したうちの1枚の葉から15年度の解析に備えてDNA抽出も行った。 15年度は,14年度までに抽出しておいた全DNAサンプルをもちいて,マイクロサテライト、DNAマーカーを用いたシーケンス,RAPD、AFLPなどの解析をおこなう予定である。
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