干潟環境の現状を把握する上で干潟周辺の海域状況を把握することが重要である。藤前干潟においては、干潟近傍に150mx300mx6mの窪地が存在し、成層構造の発達により無酸素水塊が発生し、干潟生態系に甚大な影響を及ぼすことが懸念されている。また、・名古屋港・伊勢湾全域において貧酸素・無酸素水塊が多発しており干潟環境への影響が懸念されている。このために本科研費助成金で購入した多項目水質モニターを活用して、2002年度は7月、8月に藤前干潟窪地の観測調査を行うとともに、10月に常滑沖の海域でも観測調査を実施して海域環境の把握をおこなった。 この結果、藤前干潟窪地の観測では台風13号通過に伴って、窪地内の水温・塩分による成層構造が気象擾乱を受けて全層混合していることが認められた。にもかかわらず溶存酸素濃度は全層1ppm以下で、飽和度は10〜15%レベルとなっており、擾乱以前の無酸素レベルが周辺干潟に甚大な影響を及ぼすことが明らかとなった。 また、常滑沖の海域では水深5〜15mの7地点において観測調査をおこなった結果、伊勢湾全体の無酸素水塊が解消しつつあった時点にもかかわらず、水深12m程度の底層で溶存酸素が50%に減少していることが確認された。 このような海域環境に対して干潟生態系の応答を見るために、干潟の干潮前後において干潟間隙水を採取しNH_4^+、NO_3^-、SO_4^<2->などのイオン分析を行い、干潟堆積物を用いたアセチレン法による脱窒活性の測定と併せて硝化・脱窒や硫酸還元などの微生物活性について調べている。その結果、泥質の藤前干潟では硝化・脱窒活性が弱いのに対して、硫酸還元活性が極めて高く、干潟における有機物分解の主要な微生物過程となっていることが明らかとなっている。そのような微生物過程に対する無酸素水塊の影響については現在分析中である。
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