名古屋港藤前干潟内に存在する窪地(W150mxD300mxH6m)が貧酸素水塊を蓄積し、台風などの気象擾乱により干潟底生生物の生息環境に悪影響を及ぼしていることについて、その実態を把握するために窪地内の水質の成層構造および周辺干潟の底質環境に関するモニタリングを行なった。また、伊勢湾の中でも比較的環境が良好な知多半島西岸の常滑沖の浅海域でも水質のモニタリングを行なった。 2002年度の調査では藤前干潟の窪地において、台風の通過に伴って成層構造が気象擾乱を受け全層混合によって溶存酸素飽和度が10〜15%となり、擾乱以前の無酸素レベルが周辺干潟に甚大な影響を及ぼしていることが確認された。2003年度には最も接近した台風10号が大阪湾から北陸方面に向かったため、直後の8月12日の調査でも成層構造は擾乱の影響を受けなかった。 2002年度の伊勢湾の調査では10月中旬の成層末期に観測7地点のうち水深12mの1地点で酸素飽和度が50%に減少していたが、2003年度の同時期の観測では更に水深12mと15mの2地点で酸素飽和度が50%まで減少して、海域環境が悪化していることが確認された。 海域環境の変化に対する干潟生態系の応答を見るために、干潟の干出前後において採取した干潟間隙水のイオン分析や干潟堆積物を用いた脱窒活性測定などから、硝化・脱窒および硫酸還元活性などの微生物活性を調べた。その結果、泥質干潟のため、硝化・脱窒活性は低いが硫酸還元活性が高いこと、春から夏にかけて気温の上昇と有機物供給量の増加に伴って硫酸還元活性が上昇し、有機物分解の主要な微生物過程となっていることが確認された。 また、潮汐の干満、干潟の干出による硫黄成分の酸化過程が干潟環境の維持に重要な役割を果たしていることも示唆された。これらのことから干潟環境の修復のためには、干潟内窪地の埋め戻しは不可欠であると判断された。
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