野生化したセイヨウオオマルハナバチによる在来種への生態影響を、交尾攪乱および寄生生物の持ち込みの観点から評価した。まず、交尾撹乱については、セイヨウオオマルハナバチの雄は在来のオオマルハナバチの女王に対して積極的に交尾をすることが室内実験から明らかにされている。このような異種間交尾がマルハナバチの増殖にどのような影響をもたらすかを明らかにするため、1)オスおよび女王の交尾行動、2)オスの日齢に伴う精子数の変化、3)多回交尾によるオス体内の精子数の変化、および女王体内の移動精子数の変化、4)セイヨウオオマルハナバチオスと在来マルハナバチ女王の交雑による精子利用の実態、を調べた。これらの調査結果よりマルハナバチのオスは多回交尾が可能であり、性比がオスに偏っていることからも雄間の精子競争が激しいことが示唆された。また異種間交雑ではセイヨウオオマルハナバチの精子は在来マルハナバチの産卵に利用され、雑種卵が生じることが示された。しかしこれらの雑種卵はふ化することはなく、交尾後生殖隔離が強く働いていることが示され、野外でセイヨウオオマルハナバチのオスによる異種間交雑が拡大すると在来マルハナバチの増殖に影響をもたらすことが示唆された。次に寄生生物の持ち込みについては、1998年に体内寄生性ダニが輸入商品コロニーから発見されており、この寄生性ダニは在来種にも感染することが室内実験によって明らかになっている。この寄生性ダニが日本の野外でも感染が拡大しているかを、マルハナバチ野外採集サンプルを解剖することで調べた。その結果、ヨーロッパ産の体内寄生性ダニが発見される例数が増加傾向にあることが示された。
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