1 標本および文献等の調査によるデータベースの作成 昨年度までに作成したデータベースに、宮城県と岩手県についてさらに文献、標本情報を追加し483件の分布データベースを作成した。 2 分布および植生に関する現地調査 上記の分布データベースを参考に、4回にわたり、宮城県中部〜岩手県の奥羽山地、北上山地において現地調査を行い、20地点の毎木および植生調査データ、71点のブナ生葉サンプル、約160点のブナ乾燥標本を収集した。北上山地の海岸部では、中部の宮古市付近まで、低標高域にブナおよびブナ林が残存していることが明らかとなった。 3 気候条件との対応の検討 上記1および2で収集蓄積した分布データに関して、メッシュ気候値を使用して気候(特に温度)条件との対応について解析を進めた。北上山地においても阿武隈山地と同様に、ブナの分布の下限は暖かさの指数90(℃・月)前後であることが明らかとなった。昨年度までの解析結果を8月末の第51回日本生態学会(釧路)で発表した。 4 花粉分析調査 茨城県涸沼周辺で採取した堆積物について年代測定と花粉分析を実施し、周辺の環境変遷を次のように推定した。後氷期の最温暖期には、コナラ亜属を主としてケヤキ、イヌシデ属、カエデ属、ブナ、イヌブナを含む落葉広葉樹林であった。約5000年前から人為的な森林破壊と気候の寒冷化が生じた。その後、約2500年前にかけてコナラ亜属、アカガシ亜属、クリ属、ニレ属など落葉樹種と常緑樹種の混在する森林植生が復活し、このなかでブナ、イヌブナも増加していた。最後に水田耕作の開始とともに、森林が伐採され他の多くの樹種とともにブナ、イヌブナも減少した。
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