Candida rugosa由来のリパーゼの表面を、ベンジルオキシカルボニル(Z基)、P-ニトロ-Z基、及びP-メトキシ-Z基などのΠ電子密度の異なる芳香環を有する化合物を用いて化学修飾を行った。これらの化学修飾リパーゼの構造評価をCDスペクトルから行い、加水分解反応におけるエナンチオ選択性に及ぼす化学修飾基の効果について調べた。その結果、以下の事項が明らかになった。 (1)芳香環により化学修飾すると、リパーゼの2次構造のα-ヘリックス含有量が大きく減少し、高次構造の変化を伴っていた。 (2)基質として、2-フェノキシプロピオン酸類のブチルエステルを用い、化学修飾リパーゼを触媒とする加水分解反応では、エナンチオ選択性(E値)は未修飾リパーゼに比べて著しく向上した。 (3)E値の向上効果は、初速度の測定から非優先基質であるS体の反応速度が著しく抑制されることが原因である。 (4)E値は、Z化率(TNBS法により測定した化学修飾率)が増大するにつれて向上する傾向が見られた。 (5)E値の向上効果の大きさは、Z>Z(NO_2)〜Z(OCH_3)であった。 (6)芳香環以外のアセチル基やBoc基などによって修飾したリパーゼとの比較を行ったところ、芳香環を有する化学修飾基がE値の向上効果も大きいという傾向が見られた。 (7)Z基とは異なる性質を示すと考えられるヘキサフルオロベンゼンやナフタレンのΠ電子系によって化学修飾されたリパーゼを合成中であり、上記で得られた結果との比較検討を行い、E値に及ぼす化学修飾基の効果を明らかにする予定である。
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