研究概要 |
筋小胞体カルシウムポンプは分子量11万の膜タンパク質で、ATP加水分解に共役してCa^<2+>を小胞体内腔へ輸送する。その反応回路はCa^<2+>で活性化された酵素がATPでリン酸化を受けたリン酸化中間体EPを経由する。その結晶構造は最近非リン酸化酵素でCa^<2+>を結合したE1Ca、およびCa^<2+>を結合していないが阻害剤thapsigargin(TG)を結合したE2(TG)で報告された。カルシウム輸送がEPの異性化(E1P→E2P)にて起こることから、ATP加水分解とカルシウム輸送の共役機構の解明にはEPの構造解析が必須である。 本酵素はCa ^<2+>非存在下、界面活性剤で可溶化すると直ちに失活する。これが結晶をとる上で大きな障害であった。そこで筆者は、リン酸アナログであるMgFが触媒部位に極めてtightに結合した酵素EMgF(これはE2P加水分解の遷移状態アナログである)が可溶化しても極めて安定であることを示した(JBC277,13615)。この成果はE2Pの結晶構造解析で大きな進展を与えている。 本酵素の細胞質ドメインはA、P、Nである。E1P→E2P異性化にともないAドメインが大きく90°回転してPとNに結合し、これら3つが最もcompactに集合したのがE2Pである。この集合のsigna1が膜ドメインのCa結合部位に伝わり、この異性化に供なってCa^<2+>輸送が起こる。そこで、これらの細胞質ドメイン間相互作用を調べた。A-Pドメインの相互作用にAドメイン上のLys^<189>-Lys^<205>loopが重要であり、その中のVal^<200>残基がEPの異性化にcriticalであることが示された(JBC278,in press)。また、Aドメインの回転にはAドメインと膜ヘリックスをつなぐ3本のStalkのうち、Stalk-1のloopの長さがcriticalであり、削除変異によりこのloopの長さを1残基でも縮めるとE1P→E2P異性化が完全に阻害されることが示された(生化学74,1023)。さらに、Stalk-2とPドメインのArg^<344>の相互作用がE1P→E2P異性化にcriticalであることが示された(生化学74,1023)。これらの結果は、E1P→E2P異性化にA-Pドメイン間相互作用が重要であることを示している。
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