研究概要 |
糖鎖による組織再形成と臓器線維化の制御機構を解明するため、今年度は多機能血漿糖タンパク質であるビトロネクチン(VN)のラット肝再生に伴う糖鎖変化が、組織溶解系因子(u-PA、PAI-1、u-PAR)ならびにインテグリン仲介性細胞接着伸展に与える影響を研究した。血栓や組織の溶解を担うセリンプロテアーゼであるプラスミンは、通常生体内では前躯体のプラスミノゲンの形で多く存在し、主にプラスミノゲン活性化因子(PA)と、その阻害因子である1型プラスミノゲン活性化因子阻害因子(PAI-1)によって産生量が調節される。VNは生体内で非常に不安定な活性型PAI-1を安定化し、プラスミノーゲン活性化を阻害して組織溶解を抑制すると考えられている。 まず部分肝切除あるいはシャム手術24h後のラット血漿VNを精製し、PAI-1結合活性をELISAで測定した。その結果、VNのPAI-1結合活性は、シャム手術では非手術の約3分の2、部分肝切除では約3分の1と非常に減少することが判明した。一方、酵素による糖鎖修飾VNとPAI-1との結合活性は、N-グリカナーゼ消化VNではインタクトな正常VNに比較して大きく増強したが、シアリダーゼ消化VNではほとんど変化が生じなかった。この観察から糖鎖構造内部の変化によってPAI-1結合活性が大きく変化する可能性が示唆され、肝再生初期に見られるPAI-1結合活性の変化も糖鎖変化の影響であることが考えられた。さらにu-PA阻害活性に与えるVN糖鎖変化の影響を検討中である。 また、VN存在下における細胞伸展活性を比較すると、酵素消化によるVNの糖鎖修飾によって、BHK, HepG2, 3T3など細胞の種類により異なる影響がみられた。BHK細胞では、インタクトな正常VNより糖鎖修飾VNにおいて細胞接着伸展活性が著しく減少することが示された。しかしBHK細胞に対して肝再生初期のVNでは正常VNに比較して、あまり大きな差が示されなかった。今後糖鎖構造の詳細な変化を明らかにすることによって、PAI-1結合活性ならびに細胞伸展活性の調節機構との関係を究明する。
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