研究概要 |
脊椎動物の胚、特に神経外胚葉には、Lewis xと呼ばれる糖鎖抗原が特異的に発現していることが従来から知られていた。しかしその糖鎖を生合成する酵素の遺伝子が同定されていなかったために、その生理機能の分子基盤に関する研究は進んでいなかった。この状況に対して、我々はその生合成酵素遺伝子の単離と性質の解析を目的として胚型α(1,3)フコース転移酵素のクローニングを試み、ゼブラフィッシュから単離することに成功した。本研究では、ゼブラフィッシュの胚型α(1,3)フコース転移酵素の詳細な性質解析を行った。その結果、本遺伝子が神経胚時期特異的に発現していることを確認し、また基質特異性の解析により、Lewis x構造の合成に特異的であり他の構造は合成できないことを示した。さらに、in situハイブリダイゼーション実験により、神経管およびその周辺に分散して発現していることが分かった。さらに、超高感度な蛍光標識法を用いてゼブラフィッシュの胚で発現している糖鎖の構造を網羅的に解析した結果、N-結合型糖鎖は哺乳類と同様な構造を持ち、その内の複合型2本鎖糖鎖の発現は、神経胚時期から顕著に増加することを明らかにした。また、当該のフコース転移酵素がゼブラフィッシュの胚で生合成している糖鎖を突き止めるために、フコシダーゼ消化による構造変化を指標として、フコース含有糖鎖のスクリーニングを行った。その結果、当該酵素のプロダクトであるLewis x構造はN-結合型糖鎖に存在しており、酵素の発現時期と同期して現れることが明らかとなった。
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