細胞内の鉄硫黄クラスター形成のメカニズムは、始原バクテリアで確立されたメカニズムが様々な細胞に受け継がれ、その様々な生育環境に適したメカニズムをそれぞれの細胞内で獲得してフィットさせてきたと考えられる。このような柔軟性は、細胞の適応戦略として大変興味があるものであるし、このような柔軟性が要求されるというのは、逆に言えば鉄硫黄クラスターがそれだけ様々な環境に敏感に影響を受けやすいからであるとも理解できる。このように、進化的観点からも興味ある鉄硫黄クラスターアセンブリーのメカニズムについて、らん藻、好熱性らん藻、高等植物のそれぞれを材料に、その本質に迫ろうというのが本研究のねらいであった。このような比較解析を効率よく進めることで、鉄硫黄クラスーのアセンブリーの分子メカニズムの総合的な理解をすることが可能になると考えて研究をスタートさせた。 われわれは、常温性の藍藻由来のNifU蛋白質が2Fe-2S型の鉄硫黄クラスターを保持し、そのクラスターを基質蛋白質であるアポ型のferredoxin分子へとin vitroにおいて効率よく転移することができることを示した。さらなる解析で、鉄硫黄クラスター形成において重要な役割を果たしていると考えられるらん藻の2つのIscA蛋白質に関して生化学的解析をおこないその結果、この2つのIscA蛋白質が全く異なった存在様式で細胞内で存在していることを明らかにした。特にIscA2と命名した蛋白質はHEAT repeatモチーフを複数有する新規な蛋白質であるIaiHと複合体として存在していることを見いだした。このlaiHはIscA2上に構築される2Fe-2S型の鉄硫黄クラスターを安定化する働きをしていることもわかった。また、好熱性らん藻由来のIscA2複合体を用いた構造生物学的解析を進めているところである。同時にこれらを欠損するらん藻変異株の生理学的解析も進めている。加えて、藍藻由来のNifU蛋白質が発展した形である葉緑体のホモログについても詳細な解析を行い、この蛋白質が葉緑体においても鉄硫黄クラスター形成の足場として重要な役割を果たしていることを証明し、国際学術論文として発表済みである。
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