本研究では、これまで、腎炎の発症におけるIgG糖鎖の意義を解明するため、自己免疫疾患モデルマウスに由来する腎病原性モノクローナルIgG3の糖鎖構造解析、およびヒト各種腎症患者血清中IgGの糖鎖構造解析を行った。その結果、クリオグロブリン活性や腎病原性が異なるモノクローナルIgG3ではタンパク質部分の構造は同一であるが糖鎖の構造が異なっていること、また、ヒト腎症患者の血清中IgG糖鎖が健常人のそれとは異なっていることが示唆された。そこで平成15年度の研究では、各種モノクローナルIgG3の糖鎖構造と生理機能の関係を明らかにする研究および各種腎症患者由来IgGの糖鎖構造を詳細に解析する研究を実施した。まず、腎病原性モノクローナルIgG3が有するクリオグロブリン活性に注目し、低温化処理して得られた沈殿画分と上清画分に存在するIgG3の糖鎖構造をそれぞれ解析した。その結果、沈殿画分では上清画分に比較してシアル酸を有する糖鎖の割合が顕著に減少していることが明らかとなった。また、等電点電気泳動においても沈殿画分に電荷の減少が見られた。この結果より、IgG3のクリオグロブリン活性の発現に電荷をもつ糖であるシアル酸残基の消失が関与していることが示唆され、腎炎におけるIgG沈着という現象にもシアル酸消失による電荷の減少が関与していることが考えられた。一方、ヒトにおける各種腎症患者血清中IgGの糖鎖を詳細に解析した結果、糸球体にIgGが沈着する膜成腎症患者および糖尿病性腎症患者由来IgGでは、非還元末端にマンノース残基を露出する糖鎖が検出された。このような糖鎖は、健常人のIgGや、IgGの沈着がないIgA腎症患者IgGには認められなかった。また、本研究の過程において、糖鎖構造解析に必要な各種グリコシダーゼの反応条件やHPLCによる溶出条件を決定することができた。以上の本研究の結果、IgG糖鎖の構造変化によるIgG分子の物理化学的変化あるいは生理学的変化が糸球体腎炎の発症あるいは病態形成に関与していることが示唆された。
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