免疫グロブリンG(IgG)の糖鎖構造異常は種々の疾患において見出されてきているが、糖鎖異常IgGと疾患発症を関連付ける証拠はまだない。本研究では、MRL/lprマウス由来の腎病原性モノクローナルIgG3を遺伝子工学的に様々に改変し、その糖鎖構造と腎病原性との関係を比較検討した。その結果、タンパク質部分が同じであるにも関わらず腎病原性の異なる2種のモノクローナルIgG3では、IgG3糖鎖のガラクトシレーションレベルに違いがあることが明らかとなった。また、腎病原性の発現に関与するとされるクリオグロブリン活性が異なる種々のモノクローナルIgG3について糖鎖を解析した結果、クリオグロブリン活性の発現にIgG3糖鎖のガラクトシレーションレベルが重要であることが示唆された。これらの結果は、IgG3で惹起される糸球体腎炎の発症には、IgG3の糖鎖が関与していることを意味している。これらの知見をもとにして、本研究では次に、ヒトの腎症におけるIgG糖鎖の意義を調べるため、各種腎症患者および健常人のIgG糖鎖構造を解析した。その結果、腎組織にIgAが沈着するIgA腎症患者における血清中IgGの糖鎖構造は健常人IgGのそれと同様であったが、腎組織にIgGが沈着する膜性腎症患者や糖尿病性腎症患者の血清中IgGには、健常人IgGには認められない新規糖鎖が含まれていることが明らかとなった。すなわち、この結果は、膜性腎症患者や糖尿病性腎症患者のIgGでは糖鎖に構造異常が起きていることを意味しており、これら腎症の発症あるいは病態形成にIgGの糖鎖が関与していることを示唆している。本研究で得られた知見は、糸球体腎炎におけるIgG糖鎖の重要性を指摘するものであり、腎炎という疾患を理解する上で今後大いに役立つものと考えられる。
|