本年度はヒスチジノールリン酸アミノ基転移酵素(HPAT)におけるPLP-Lys214シッフ塩基pK_aの調節機構の解明をテーマに研究を行った。 1.Lys214変異酵素を用いた解析-野生型酵素ではLys214-PLPシッフ塩基のC4-C4'に52°のねじれ角が存在する。Lys214をAlaに置換し、メチルアミンによりシッフ塩基を再構成させることでPLP-Lys214シッフ塩基C4-C4'のねじれ角を消失させた変異酵素を作成し、このねじれ角のシッフ塩基pK_aに及ぼす影響について検討した。その結果、変異酵素ではpK_aが10.6と野生型酵素より4.0上昇しており、C4-C4'ねじれ角がシッフ塩基pK_aを低下していることがわかった。 2.Arg335変異酵素およびAsn157変異酵素を用いた解析-基質結合に関与するArg335をLeuに置換した変異酵素では、野生型酵素と比べてpK_aが2上昇していた。またAsn157をAlaに置換した酵素ではpK_aは野生型酵素よりも2.6上昇していた。Asn157はArg335およびPLPO3'と水素結合網を形成していることから、Asn157/Arg335二重変異酵素を作成し水素結合網の影響を完全に取り去ったところpK_aは4上昇した。このことから、Arg335の正電荷のシッフ塩基pK_aに及ぼす直接的影響は1.4であり、水素結合網を通しての間接的影響は0.6であることがわかった。 以上の結果から、HPATにおいて、触媒反応を効率良く進めるためLys214-PLPシッフ塩基のC4-C4'ねじれ角を変化させることによりpK_aを調節するしくみが存在することが明らかとなった。このメカニズムはアスパラギン酸アミノ基転移酵素や芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素においても見られ、これらの酵素が属するサブグループIアミノ基転移酵素において共通のメカニズムであると考えられた。
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