ヒスチジノールリン酸アミノ基転移酵素(HPAT)の分光学的・速度論的解析 HPATはヒスチジノールリン酸(HisP)と2オキソグルタル酸(2OG)との間.の可逆的アミノ基転移反応を触媒する。HPATはPingPong-BiBiメカニズムによりアミノ基転移反応を行い、活性は全反応において23sec^<-1>でHisPおよび2OGに対するK_mはそれぞれ0.2および1.2.mMであった。PLP型酵素の吸収スペクトルはpH依存性を示し、酸性pH領域で430nmにアルカリpH領域で340nmに吸収極大を示した(pK_a=6.6)。CDスペクトルにおいても430nmおよび340nmに正のCDを示し吸収スペクトルの場合と同様なpH依存性を示した。一方、PMP型酵素の吸収スペクトルは329nmに吸収極大を示したが、CDスペクトルにおいては、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)と異なり、この波長にコットン効果は見られなかった。このことは両酵素において補酵素近傍の環境が異なることを示す。半反応では、本酵素はHisPやグルタミン酸を良好な基質としたが、グルタミン酸より炭素数が一つ少ないアスパラギン酸に対してはほとんど活性を示さず、また芳香族アミノ酸も基質としなかった。 HPATにおけるPLP-Lys214シッフ塩基pK_a調節機構 野生型酵素ではLys214-PLPシッフ塩基のC4-C4'に52°のねじれ角が存在する。Lys214をAlaに置換し、メチルアミンによりシッフ塩基を再構成させることでこのねじれ角を消失させた変異酵素を作成し、シッフ塩基pK_aに及ぼす影響について検討した。その結果、変異酵素ではpK_aが10.6と野生型酵素より4.0上昇し、C4-C4'ねじれ角がシッフ塩基pK_aを低下していることがわかった。基質結合に関与するArg335をLeuに置換した変異酵素では、野生型酵素に比べてpK_aが2上昇していた。またAsn157をAlaに置換した酵素ではpK_aは野生型酵素より2.6上昇していた。Asn157はArg335およびPLP03'と水素結合網を形成する。Asn157/Arg335二重変異酵素を作成し水素結合網の影響を完全に取り去るとpK_aは4上昇した。このことから、Arg335の正電荷のシッフ塩基pK_aに及ぼす直接的影響は1.4であり、水素結合網を通しての間接的影響は0.6であることがわかった。以上の結果から、HPATにおいて触媒反応を効率良く進めるためLys214-PLPシッフ塩基のC4-C4'ねじれ角を変化させることによりpK_aを調節するしくみが存在することがわかった。このメカニズムはASTや芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素においても見られ、これらの酵素が属するサブグループIアミノ基転移酵素において共通のメカニズムであると考えられた。
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