研究概要 |
我々は、これまでに、コレステロールに特異的に結合する毒素(θ毒素)を改変、無毒化することによってコレステロールに特異的なプローブ(BCθ)を作製し、BCθが脂質ミクロドメイシ(ラフト)中のコレステロール密度の高い領域に選択的に結合することを見いだしている。従来、ラフトの生化学的解析には界面活性剤に不溶性の低密度膜画分が「ラフト画分」として用いられてきた。しかし、我々はBCθを用いた電子顕微鏡による観察から、「ラフト画分」にはコレステロールに富む膜とそうでないものが混在していることを見出した。このことは、組成の異なるラフトサブセットの存在、あるいはラフトとは特徴づけられない膜成分の混在を示すものと考えられる。そこで、BCθを用いたアフィニティ精製を行い、「ラフト画分」からコレステロールに富む膜を分離する試みを行った。まず、ビオチニル化したプローブ(BCθ)を結合させたT細胞(Jurkat細胞)から「ラフト画分」を調製した。次に、この画分にアビジンを結合させた坦体を加え、BCθを結合した膜断片のみを坦体に吸着させて分離した。吸着画分の膜断片は非吸着画分に比べコレステロール/リン脂質比が高く、また、脂質組成においても両者には差があることが示された。さらに、ラフトマーカーといわれているフロチリンや、Lck,FynおよびガングリオシドGM1の他に、LAT,PAG,Csk等のT細胞情報伝達に関わる分子群が吸着画分に回収された。一方、CD3やZAP-70、エズリン等は非吸着画分に回収された。このことから、「ラフト画分」中の特定の分子群がコレステロールに富む膜領域に局在することが強く示唆された。さらに、受容体刺激による活性化に伴って、コレステロールに富む膜領域に移行してくる分子群の存在が捉えられたことから、本分離法は情報伝達に伴うラフトの変動の解析にも有用と考えられる。
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