膜蛋白質や分泌蛋白質の多くはアスパラギン結合型(N型)糖鎖が付加している。このN型糖鎖の持つ新しい機能を解明するために、糖鎖結合蛋白質のスクリーニングを行った。その結果、ユビキチンリガーゼ複合体の標的識別分子であるF-box蛋白質が単離された。このF-box蛋白質はFbx2と同定され、成体マウスの脳に特異的に発現していた。最初に、組換え蛋白質を用いた試験管内再構成実験でこのリガーゼ複合体はN型糖鎖依存的に分泌糖蛋白質をユビキチン化することを確認した。次に、神経細胞内でFbx2に認識される基質蛋白質の一つを接着分子であるインテグリンβ1と同定した。さらにFbx2は高マンノース型糖鎖を特異的に認識することが明らかにされた。細胞分画実験によりFbx2は細胞質においてブロテアソーム阻害剤存在下インテグリンβ1と結合することが判明した。以上の結果より、Fbx2の機能は小胞体より細胞質に逆行輸送された変性蛋白質やポリマー形成不全蛋白質の小胞体関連分解への関与が考えられた。平成15年度は以下の成果を得た。(1)Fbx2は蛋白質の品質管理に関与する:Fbx2は、ニューロン、しかも成体の脳に特異的に発現されており、神経細胞内で品質管理の役割を担っている可能性を示唆する結果が得られた。小胞体関連分解の基質蛋白質の変異体をCOS細胞に導入したモデル実験系を用いて、Fbx2の小胞体関連分解への関与を調べた。野生型のFbx2を強制発現させると凝集体の形成が抑えられたが、変異型Fbx2や他のF-box蛋白質ではこの現象は観察されなかった。この結果は、Fbx2が凝集体形成すなわち蛋白質の品質管理に関与することを示唆した。(2)Fbx2はファミリーを形成する:Fbx2のホモログとして幾つかの遺伝子が明らかにされ、ファミリーを形成することが報告されている。マウスのFbx2/FBG1/Fbs1とFbx6b/FBG2/Fbs2を比較検討したところ、Fbx6Bの糖鎖結合特異性はFbx2と比べて少し親和力が弱いものの、Fbx2と非常によく似た特異性を持つことが判明した。すなわち、高マンノース型のN-結合型糖鎖と特異的に反応することが明らかにされた。しかし、組織における発現は全く異なっていた。Fbx2はニューロンと睾丸にのみ検出されたが、Fbx6Bはほぼ全ての臓器・組織に発現が認められた。FBG3は、FBG2と75%の相同性を示し、その組織における発現はほぼユビキタスである。しかし、FBG3の糖鎖結合能は確認されなかった。
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