セレクチン等のシアル酸含有糖鎖をリガンドとする接着分子は、シアル酸のカルボキシル基を認識する例が多く報告されている。最近、我々はシアル酸のカルボキシル基を失わせる新規な修飾構造(以下、サイクリックシアル酸と示す)を見い出した。この修飾により、シアル酸を介した細胞接着の強さが調節されると考えられる。本研究では、サイクリックシアル酸の発現機構を遺伝子レベルで明らかにし、シアル酸含有糖鎖を介した細胞接着の調節機構を解明することを目的として解析を進め、以下の成果を得た。 まず、サイクリックシアル酸生成に携わる酵素、シアル酸シクラーゼの遺伝子単離を発現クローニング法により試みた。その過程で、サイクリックシアル酸の発現を促進する因子として、インターフェロンγの遺伝子が単離された。前駆体である通常のシアル酸含有糖鎖、シアリル6-スルホLe^X発現細胞をインターフェロンγで処理したところ、処理濃度及び時間依存的なサイクリックシアリル6-スルホLe^Xの発現増加が確認された。その発現は可逆的であり、Bリンパ球系細胞では約6時間、上皮細胞由来の細胞株では12-24時間で誘導された。サイクリックシアリル6-スルホLe^Xの発現を誘導する因子として、自然界に存在する分子が同定されたのは初めてである。その作用機構の解明は、サイクリックシアル酸の生理的意義を明らかにする上で重要な手がかりになると思われる。 ところで、サイクリックシアル酸認識抗体で常時陽性に染色されるYT細胞やHUT-102細胞は、サイクリックシアル酸含有糖鎖の前駆体を認識する抗体では染色されない。しかし、固定化とサポニン処理で細胞膜の透過性をあげると、前駆体を認識する抗体でゴルジ装置と思われる部位と細胞表層付近が粒子状に染色され、前駆体の一部は細胞表層部まで運ばれた後、シアル酸がサイクリックシアル酸に変換されることが示唆された。
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