今年度は、nNOSの機能ドメインとCaMあるいはカベオリンとの相互作用と反応に対する効果を解析した。ラットカベオリンのcDNAを単離し、その大腸菌での発現系を構築し、GST融合タンパク質あるいはHis-tag付きのタンパク質として発現、精製した。さらにnNOSの自己阻害配列部分の欠失変異体やオキシゲナーゼドメインおよび還元酵素ドメインのみのタンパク質の大腸菌での発現プラスミドの構築を行った。これらの精製タンパク質を用いて、免疫沈降法等によりタンパク-タンパク間相互作用を検討した。その結果(1)カベオリンはnNOSのオキシゲナーゼドメインのみおよび還元酵素ドメインのみと結合出来ることがわかった。(2)カベオリンのscaffolding domainのペプチド(CaV1p1)の完全長のnNOSの活性に対する効果を調べたところ、CaV1p1は濃度依存的に(IC50=1.8μM)CaMに依存するNO合成活性とNADPH酸化活性を阻害するが、この阻害はCaMの過剰量の添加によって部分的に拮抗された。(3)次に、nNOSに存在する推定カベオリン結合配列中に保存されているアミノ酸(F584、W587)の変異体を作成し、CaV1p1阻害効果を調べたところ、変異体でもカベオリンペプチドによる活性阻害が見られた。したがって、血管内皮細胞型NOS(eNOS)の場合と異なり、nNOSは推定結合配列以外の部位でもカベオリンと相互作用することが示唆された。(4)また、還元酵素ドメインのシトクロームc還元活性はCaV1p1によって90%以上阻害されるのに対し、フェリシアン化カリウム還元活性は50%未満しか阻害されなかった。このことから、カベオリンペプチドは、nNOSではNADPHからFADまでの電子移動に影響せずFADからFMNさらにFNMからヘムへの電子移動を阻害すると考えられる。(5)さらにnNOS還元酵素ドメインの種々の欠失変異体を作成し、カベオリンとの相互作用を検討したところ、相互作用にはFMNドメインのみで充分であることがわかった。(6)以前我々は、自己阻害配列を欠失した変異体は、野生型と異なりCa^<2+>/CaM非存在下でもNO合成活性があることを示した。しかし興味深いことにカベオリンペプチドは、このCa^<2+>/CaM非存在性のNO.合成活性を阻害しなかった。つまりカベオリンは、CaM結合による構造変化によって誘導されるnNOSの還元酵素ドメインからオキシゲナーゼドメインへの電子移動を阻害していると考えられる。その結果、血管内皮型のeNOSの場合と異なる阻害様式が明らかになった。
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