研究概要 |
ホスホリパーゼD(PLD)は産生されるホスファチジン酸(PA)を介してさまざまな情報伝達系と活発にクロストークし、重要な情報変換酵素であることが近年明らかにされてきた。高等動物PLDには2種類のアイソザイム(PLD1,2)があり、各種アゴニスト刺激により異なる機構で活性化され、低分子Gタンパク質、PKCやチロシンキナーゼが関与することを明らかにした。また、PLDの細胞機能(分泌などの迅速応答ならびに長期応答の増殖、分化、アポトーシスなど)における関与について検討を行い、肝再生のS期や肝がん細胞および腎がん組織の核にPLD1,2の高活性が認められた。また、PLD2遺伝子SNP解析によりThr577/IIe多型が大腸がんで高いことが見いだされ、PLDが増殖やがん化に関与することを示唆した。一方、神経細胞(PC12細胞)の酸化ストレス(H202)の初期応答として著しいPLDの活性化が起こり、EGFRのチロシンリン酸化やERKが関与することを示唆した。また、PLDの活性上昇がアポトーシス誘導を抑制することが示されており、SurvivalシグナリングにおけるPLDの役割を明らかにするために、PLD1,2の過剰発現細胞を用いて検討した。スフィンゴシン1-リン酸(S1P)の受容体S1P3過剰発現CHO細胞にPLD1およびPLD2を過剰発現し、増殖(S1P, IGF)刺激によるPLD、AktおよびERKの活性化を検討したところ、PLD過剰発現によりAktとERKの活性化が増強され、これらの活性化は1-butanolにより阻害された。両ERKの活性化はRasDNにより阻害されるが、Aktの活性化は影響されなかった。またIGF刺激によるAktの活性化はPLD1,2過剰発現によって影響されないことから、PLDの関与はRasに関係しており、受容体により異なることが示された。一方、CHO細胞をアクチノマイシンD(AMD)処理するとアポトーシスが誘導されるが、PLD1,2過剰発現により抑制されることを見いだした。AMDによるアポトーシスシグナルには、カスパーゼ依存的なPKCδの分解が関与し、PLD1,2の過剰発現によりPKCδの分解が抑制された。また、AMDによるERKやS6Kの活性化がPLD1,2導入により増強された。以上の結果から、PLD1,2は増殖・生存シグナリングの活性促進に関与していることが示唆された。
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