本研究はヘパリン結合性成長因子ミッドカイン(MK)が細胞内に取り込まれた後の機能とその後の運命を探ろうとするものであった。平成14-15年度の2年間の援助を受けて以下に概略するように、この目的を果たすことができた。本研究は成長因子の作用機構を知る上で重要な知見を与え、成長因子およびそのシグナリング系を標的とした今後の医学的応用にも基礎的に有用なものになると期待される。 MKはヒト癌の発生進展、神経細胞の生存分化、炎症細胞のリクルートをはじめとする重要な機能を生体内で発揮する。その受容体のひとつとしてLDL受容体ファミリーに属するLRPがある。本研究によって、LRPがMKのエンドサイトーシスを担うこと、エンドサイトーシスされたMKは細胞質で細胞質・核シャトル蛋白であるヌクレオリンと結合すること、ヌクレオリンと結合したMKは核へ移行する。この核移行がMKの抗アポトーシス活性に重要であることを示した。 このようなMKの核移行によるシグナリング系について、では一体どのような終止機構があるのだろうか?本研究によりMKの核移行に伴うシグナリングの終止にはプロテアゾームによる分解が重要であることが判明した。つまり、細胞内に取り込まれたMKの分解に対して、プロテアゾーム阻害剤とリソゾーム阻害剤は両者ともに同程度の抑制効果があるのだが、核画分のMKの分解はプロテアゾーム阻害剤のみが抑制する。実際に細胞質内でMK蛋白を発現させると、MKはユビキチン化を受ける。さらにMK分子のN末側半分が特に分解に関与が強く、一方、C末側半分は核移行を担う。 本研究ではヒト癌とMKに関してもマーカーとして、あるいは分子標的としてのMKの重要性を示す知見を得ることができたので、これらもあわせてこの報告書で報告する。
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