研究概要 |
分子生物学の発展に伴いアミノ酸レベルの変異を導入して輸送の分子機序を明らかにする研究が行われるようになった。しかし、たった1箇所の変異の導入によってもその3次元構造が変化して目的の場所以外のところの変化が起こることが次第に明らかとなり、輸送の機能に対する立体構造からの解析の困難が認識されるようになった。このような状況、我々はよく似たアミノ酸配列を持っているが性質の異なる輸送体のキメラを作ることにより機能発現に対し中心的な役割をするアミノ酸残基を同定する方法をあみだした。 酵母Saccharomyces cerevisiaeの高親和性糖輸送体Hxt2と低親和性糖輸送体Hxt1はアミノ酸レベルで70%の同一性がある。輸送の親和性の違いがどのような構造上の違いから生じているか明らかにするため12個ある膜貫通部位(TM)のどのTMが関与しているか、すべてのTMを置換したライブラリーを作り、それらの中で高親和性を示すキメラを寒天培地上で選択した。その結果、TM1,5,7,8がHxt2由来であれば高親和性輸送を行うことがわかった。さらに、解析を進め、これら4つのTMのうちTM5がすべてのキメラで存在しておりもっとも重要であることがわかったので、このTMに解析を集中した。TM5ではHxt2とHxt1で4箇所のアミノ酸残基が異なるだけであった。これら残基のいずれが重要かすべての組み合わせである16個のキメラを作成し、糖輸送のキネティック・パラメーターを測定した。その結果Leu-201が高親和性輸送に必須で、Cys-195またはPhe-198が補助的な役割を示し最大速度を上げていた。このような複数個のアミノ酸残基が関与する現象は通常の部位特異的変異では見出すことが困難で、我々が採用した包括的なキメラを利用するストラテジーの有用性を物語るものである。
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