研究概要 |
造血幹細胞は骨髄に存在し、その増殖と分化は非血球細胞である間質系のストローマ細胞による"場のシグナル"によって厳密に制御されていると考えられている。本研究は、造血幹・前駆細胞とストローマ細胞における細胞間相互作用である造血幹・前駆細胞のHoming/Migrationに焦点をあて、造血幹・前駆細胞の骨髄認識機構と、骨髄移行を誘導する細胞表面分子による造血幹・前駆細胞の運動を制御する分子機構を明らかにすることを目的とした。 (1)ヒト赤芽球系白血病細胞株、HEL細胞は、種々の系列の分化型細胞株と比較してストローマ細胞株であるHESS-M28細胞への高い浸潤活性を示す。この性質を利用して、造血幹・前駆細胞のストローマ細胞への浸潤モデルを構築し、造血幹・前駆細胞の浸潤を定量的に解析することを可能にした。 (2)この両細胞に異なる蛍光タンパク質を発現させ、共焦点レーザー顕微鏡(LSM510-META)により、Migrationの過程を解析した。その結果、HEL細胞はストローマ細胞と接触後、速やかに細胞の2倍以上の長さの突起を形成して、ストローマ細胞の辺縁部よりMigrationすることが判明した。 (3)造血幹・前駆細胞のストローマ細胞への浸潤には、HEL細胞表面上のCD29分子が関与していることを明らかにした。 (4)HEL細胞のMigrationには、低分子量Gタンパク質(rho,rac,cdc42)によるアクチンの骨格制御が関与していることを明らかにした。低分子量Gタンパク質の下流のPAK、ROCK経路が関与するととも共に,その下流で、LIM-Kinaseを活性化し、さらにアクチン骨格の再編を制御するCofilin経路を制御していることが判明した。共焦点レーザー顕微鏡による解析では、HEL細胞の突起形成初期に局所的にリン酸化Cofilinが集積し、長い突起を形成した場合には、リン酸化Cofilinが突起先端部に集積していることから、Cofilin経路の制御が、HEL細胞のMigrationに伴う突起形成に密接に関与していることが示唆された。
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