本研究では、リガンドで活性化されたTrkレセプターからシグナル伝達が出発する段階に特に注目し、このシグナル伝達出発段階に関与する多様なTrkレセプター結合アダプター蛋白質(シグナル伝達蛋白質)を可能な限りすべて同定し、それらの蛋白質のシグナル伝達における機能を明らかにすることを目的とした。BDNFによるTrkBレセプターを介したシグナル伝達に関与する新規蛋白質の同定を行なう目的で、酵母のtwo-hybrid系を用いて、ラットTrkBレセプターの細胞質領域と結合するシグナル伝達蛋白質のcDNAのクローニングを行なった。今回、リン酸化チロシン残基に非依存的にTrkB膜近傍領域に結合する新規のシグナル伝達タンパク質cDNAとして、独立に8つのクローンが得られた。各クローンの塩基配列からデータベースによりそれぞれの蛋白質を同定した。その結果、26S protease regulatory subunit S10 (p44)、Siahla protein、Sorting nexin 16 (SNX 16)が同定された。これら3種類の内前2者は、キナーゼ欠損TrkB全長細胞質領域、野生型TrkB全長細胞質領域とは結合しなかったので、TrkB膜近傍領域のunfolded polypeptide部分の分解系に関与していると思われる。26S protease regulatory subunit S10(p44)はプロテアソームの調節サブユニットであり、TrkBのunfolded polypeptide部分の分解の際のユビキチン化に関与していると思われる。Siahla proteinは、ユビキチン/プロテアソーム経路を活性化することや、代謝型グルタミン酸受容体と結合することが報告されているが、今回同定された各クローンに共通する領域に新規のTrkB unfolded polypeptide部分結合ドメインが存在すると考えられる。一方、Sorting nexin 16は、キナーゼ欠損TrkB全長細胞質領域と結合するが、野生型TrkB全長細胞質領域とは結合しなかった。つまり、非リン酸化TrkBにのみ結合する。Sorting nexin 16はファミリーを形成しており、哺乳類間でも高度に保存されている。その働きは細胞内の蛋白質の局在化にあると考えられている。Sorting nexinのファミリーの中には、EGF受容体と結合し、そのdown regulationに関与しているものも報告されているが、TrkBでも類似の局在化作用を行っている可能性がある。
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