私達は以前、三量体G蛋白質Gi2が胎生期脳の脳室周辺に選択的に局在することを見いだし、神経前駆細胞の機能との関連を示唆した。胎仔の脳室に百日咳毒素(PTX)を注入すると、大脳皮質の細胞数とBrdU陽性細胞数の有意な減少が見られ、Gi2は神経前駆細胞の増殖を促進すると考えられた。胎仔脳より分離した神経前駆細胞を用いて、どの受容体刺激で細胞増殖が起こるかを検討した。脳の発生初期に発現しているG蛋白質共役型受容体を刺激し、[^3H]チミジンの細胞への取り込みを測定すると、エンドセリン(ET)で有意な促進が見られ、培養皿をフィブロネクチン(FN)でコートしておくと、さらに強い[^3H]チミジンの取り込み促進が見られた。これはET-B受容体を介する反応であった。ETによる細胞増殖を検討すると、FN存在下で有意に細胞数が増加したが、非存在下では見られなかった。一方、下流の反応を検討すると、ERKのリン酸化がETにより顕著に増加した。ETによるERKのリン酸化はFNの有無に影響を受けなかったので接着とは無関係と考えられる。ETによるDNA合成、細胞増殖、ERKのリン酸化の促進はいずれも、PTXで細胞を前処理しておくと部分的に抑制されたことより、GiだけでなくPTX非感受性G蛋白質も関与していると考えられる。 一方、私達が見いだしたHeLa細胞におけるGq/11が誘導するアポトーシスの分子機構について検討し、2つの経路が関与して相加的にアポトーシスを誘導しているという結論を得た。ひとつはIRS-1に特異的と推定されるチロシンホスファターゼが活性化され、生存シグナルの中心的分子であるAktのリン酸化が低下することによると考えられる。もうひとつは、Rhoが活性化されることにより、アポトーシスが起こるとものであるが、Aktの活性型は両経路によるアポトーシスを抑制した。
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