| 研究概要 |
原始地球上におけるオリゴペプチドの生成過程において,アミノ酸単分子を重合させる反応の場として,海底熱水噴出孔近傍の熱水環境と脂肪酸が造る脂質膜小胞に着目した.実験に用いた進化フローリアクターは,熱水と冷水との界面に生じる大きな冷却温度勾配を定常的に実現する.本年度は飽和脂肪酸(デカン酸)および不飽和脂肪酸(オレイン酸)が造る小胞内部がアミノ酸重合反応の場として有効であるか否かについて実験的な検証を行った.
脂肪酸小胞の直径は最大で10μm程度であった.実験にはグリシンのみを反応出発物質としたものと,脂肪酸小胞を含むグリシン溶液を反応出発物質としたものを用いた.進化フローリアクターの反応条件は高温部125〜250℃,低温部25〜40℃,圧力20MPaとした.その結果,リン脂質(DPPC)ベシクルの場合と同じく脂肪酸小胞存在下においてもグリシン2量体とグリシン3量体の生成を確認した.グリシン重合物の生成量は小胞非存在下に比べ小胞存在下では2倍近くに増加した.この傾向は脂肪酸の濃度,グリシンの濃度を変えた実験においても得られた.また,高温部を150℃に設定した反応条件ではグリシン3量体はデカン酸小胞存在下のみで生成された.
界面活性剤Triton X-100を用い小胞構造を破壊したグリシン溶液では,グリシン重合物の生成量の増加は見られなかった.小胞内部にグリシンを含まない条件ではグリシン重合反応は促進されなかった.この結果は脂肪酸小胞の内部がグリシン重合反応促進の役割を果たすことを示す.オレイン酸小胞が占める容積は溶液全体の約5%を占めることが判明し,小胞構造がアミノ酸重合反応の促進に与える効果は顕著であることが確認できた.
以上のことから原始地球上の海底熱水噴出孔近傍の環境で脂肪酸小胞がアミノ酸の反応の場として機能したことが示唆された.
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