本研究では蛋白質の構造揺らぎが電子トンネル効果の電子因子にどのような影響を与えるかに焦点を絞って研究を行った。Purple bacteria光合成反応中心におけるBphからQAへの電子移動を例にして、上記課題の研究を行った。反応中心全体の蛋白質の構造揺らぎのデータを1fs間隔で古典的な分子動力学シミュレーションによって集積した。電子トンネル行列要素T_<DA>の計算はドナー7とアクセプターを取り巻く60個のアミノ酸残基にたいしてPM3およびExtended Huckel法で計算を行った。その結果、T_<DA>は数fsレベルの非常に細かく大きな変動を示した。このことは電子因子が核の運動に強く依存し、通常用いられているコンドン近似が不適であることを示す。15psまでのautocorrelation functionをもとめたところ、約50fsの時定数で近似的に指数関数的に減衰する曲線が得られた。他方、平均フランク・コンドン因子のフーリエ変換によりdecoherence function D(t)を求めた。われわれは電子移動速度がautocorrelation functionとD(t)の積のフーリエ変換の式で求まることを見つけた。種々のエネルギーギャップに対してこの式から電子移動速度を計算すると、大きなエネルギーギャップのところで電子移動速度があまり減少しないというまったく新しいエネルギーギャップ則が得られた。このエネルギーギャップ則に対応する実験との比較、及びその有用性については今後研究していく予定である。
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