研究課題
光合成細菌Rhodobactor sphaeroidesの反応中心におけるバクテリオフェオフィチンアニオンからキノンへの電子移動を例にして、蛋白質中電子移動速度に対する蛋白質構造の熱揺らぎの効果をコンピュータ計算と理論的解析手法で調べた。そのため、蛋白質の構造揺らぎを分子動力学シミュレーションで実現させ、電子トンネル要素を各構造ごとに量子化学計算で求めた。その結果、電子移動経路は大きく2つに分かれ(MetルートとTrpルート)、構造の熱揺らぎによって、2つのルートのいずれかが選択される場合と、両者が同時に使われる場合があった。両者が同時に使われる場合には2つのルート間の干渉効果が強くおこり、電子トンネル要素が非常に小さくなった。次に、電子トンネル要素が蛋白質の構造によって大きく変化することを一般的にnon-Condon理論として定式化した。この理論に基づき、上記電子移動系で数値解析を行なった。その結果、電子トンネル要素の時間相関関数は指数関数的な減衰を示し、そのパワースペクトルはローレンチアンの長いテールを持った。この長いテールは非弾性トンネル効果によるものである。その結果、電子移動速度に対するエネルギーギャップ依存性(エネルギーギャップ則という)はマーカスのパラボラの逆転領域に大きな修正をもたらした。すなわち、逆転領域でのパラボラの減衰が抑えられ、大きなエネルギーギャップに対して電子移動速度が高いレベルに保たれた。このような異常逆転領域を示す実験データを検索し、1970年に発表されたRehmとWellerの極性溶液中での蛍光消光実験のデータがそれに対応することが明らかになった。逆転領域のレベルの高さは電子トンネル要素の時間相関関数の指数減衰の速さによることが示された。指数減衰の速さはドナーとアクセプター間距離、エネルギーギャップと並んで、電子移動速度を制御する有力な手段となる。
すべて 2005 2004
すべて 雑誌論文 (2件)
J.Phys.Chem.B 109
ページ: 1978-1987
Photochem.Photobiol. 79, 5
ページ: 476-486