研究概要 |
動物生体内における神経伝達物質の合成・蓄積・放出に関与する神経内分泌小胞には、cytochrome b561を中心とする膜貫通電子伝達系が存在している。この電子伝達反応は、細胞質中に存在するアスコルビシン酸(AsA)から膜中のb561が電子当量を受け取り、分子内(膜貫通)電子伝達反応を行った後、小胞内側に存在するモノデヒドロアスコルビン酸(MDA)ラジカルに電子を渡すことによりAsAを再生する役割を担っている。この結果、小胞内の銅含有酸素添加酵素(dopamine β-hydroxylase ; DBH等)による神経伝達物質の合成反応が可能となる。ウシ副腎髄質より精製したb561分子中には異なる中間点電位(+170mV,+60mV)を持つ2つのヘムbが小胞内側と細胞質側に面して存在し、それぞれMDAラジカルヘの電子供与、AsAからの電子受容の機能を持っていると思われる。我々は酸化型b561をdiethyl pyrocarbonate(DEPC)で処理すると、His88,His161,Lys85が特異的にcarbethoxy化を受け、AsAからの電子受容が阻害されることをすでに見出している。 液体He温度でのFPR解析で、酸化型試料で観測される2つのlow-spin種(g_z=3.12,g_z=3.69)のいずれもDEPC処理に伴ってg値の変化は示さなかった。しかし、AsAを還元剤として用いた場合、g_z=3.69種は還元されてEPRシグナルを示さなくなるのに対してg_z=3.12種はAsAでは還元できない状態に変化していることがわかった。よって、g_z=3.12シグナルを示すヘムは細胞質側に位置するヘムであり、保存性のHis88とHis161とによって配血結合されているヘムであることが示された。この結論は、未処理b561及びDEPC処理したb561の酸化還元電位解析の結果と一致した。さらに、共鳴ラマン散乱法による解析結果とも矛盾しなかった。 Detergent dialysisとextrusionとを組み合わせた方法によって、b561が膜中に埋め込まれ、しかも内腔にAsAを封入した人工小胞を作った。このような人工小胞の外側に精製した水溶性DBHを添加し、dopamineのアナログであるtyramineを酵素基質として加えると、その水酸化物であるoctopamineが生成することをHPLC解析により確認することができた。この活性は人工的な電子伝達mediatorであるferricyanideを添加すると顕著に増加した。AsAのみを封入した人工小胞の場合にはほとんど酵素活性は見られなかった。以上のことからAsAT→b561→mediator→DBHという順方向の膜貫通電子伝達による再構成反応系を構築する事が可能となった。生理的にはAsA/MDAラジカルがmediatorとして機能していると考えられる。
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