JNKは線虫やショウジョウバエといったモデル動物の発生過程において、アポトーシスの誘導やplanar細胞極性の確立といった機能を有するとの報告がある。このJNKを活性化するMAPKKKクラスのタンパク質リン酸化酵素に関しては哺乳類における研究が進んでおり、いくつものMAPKKKがJNK活性化酵素として同定されている。しかしこれらのJNK活性化酵素が哺乳類の発生過程のどのような局面において機能しているかについての報告は極めて少ない。MUKは、我々がJNKを活性化するMAPKKKクラスのタンパク質として同定したもので、主に神経組織に発現している。我々はMUK-JNK経路の神経組織発生における役割を明らかにする目的で、まずマウスの発生過程におけるMUKタンパク質の発現パターンを観察した。その結果、E16の大脳皮質においては、intermediate zoneを形成する移動中の神経細胞群に高い発現が検出された。この細胞群ではJNKの活性が他の部分に比べて著しく高くなっており、MUK-JNK経路が大脳皮質の神経分化の特定の段階で何らかの機能を果たしている事が予想された。また、cortical plateにおける神経細胞の移動不全が認められるreelerマウスの胚では本来MUKの発現がほとんど見られないcortical plateに於いて著明な発現が認められること、アデノウイルスベクター導入によるMUKの恒常的な発現により分化直後の神経細胞の移動阻害が認められることから、MUKが細胞の移動を負に制御している可能性が考えられた。さらに、COS-1細胞にMUKを強制発現させることによりMTOCを中心とした微小管系の放射状構造に著しい乱れが認められたこと等から、MUK-JNK経路は細胞極性の調節を介して神経細胞の移動制御に関わっていると考えられた。
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