遺伝情報発現制御機構の解明には時間生物学の観点を取り入れた解析が必要不可欠である。個体発生における組織・細胞の分化や、種々の細胞内情報伝達応答等に対応した遺伝情報発現制御は、厳密な時間軸を有するDNAと蛋白質の相互作用である。本研究では、細胞分化系で協調的に働く複数の因子(分化、組織特異的因子群およびそれらが作用する基本転写装置を構成する因子群)が作用する順番、すなわちどの時期にどの因子とともに作用しているのか、を解析することにより時間軸を取り入れた遺伝子転写制御機構の解明を目標とした。モデル系としてMyoDを誘導的に活性化することにより筋肉に分化する、マウス繊維芽細胞株を用いた。筋肉特異的に発現するmuscle creatine kinase、myogenin、desmin、p21、myosin light chain、tublin alpha遺伝子の発現をRT-PCRおよびノザン法にて分化誘導後異なる時間で発現の消長を示すことを観察した。この発現の消長が転写因子の結合と関連しているかどうかをみるためにMyoD抗体を用いたCHIPアッセイを行い、遺伝子の発現は転写因子の結合時間と一致していることを見出した。免疫染色法によりMyoDは誘導的に活性化した直後より核内に見出されるため、遺伝子の時間的発現差異はMyoD蛋白質の存在のみでは説明できない。そこでこれらの遺伝子動態を3DFISHにて観察した。遺伝子発現に伴いクロマチンがほどけていく像が観察された。さらに染色体の動態は転写因子の結合より前におこることも確認した。以上の結果は、遺伝子発現の際、転写因子結合のみならず、発現する遺伝子領域を含む染色体が何らかの原因で動的にほどけていくことを示唆する。
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