我々はこれまで酸化グアニン(8-oxo-G)による突然変異誘発機構とその防御機構について研究を進め、DNAに取り込まれた8-oxo-G塩基を除去修復する機構と前駆体である8-oxo-dGTPを分解してそのプールを浄化する機構の2段階システムが存在することを明らかにしてきた。このうち、変異原性ヌクレオチドの排除に関しては、大腸菌のMutT蛋白質と哺乳類の相同蛋白質であるMTH1に着目してその機能解析を進めてきた。なぜなら大腸菌ミューテーター遺伝子mutTとそれに対応する哺乳動物の遺伝子Mth1(MutT Homologue 1)は、その産物が8-oxo-dGTPを分解する活性を持つからである。これまでにターゲッティングによりMth1を欠く細胞およびマウスを樹立し、Mth1-/-細胞の自然突然変異率やMth1-/-マウスでの腫瘍の自然発生率が野生型のそれらに比べ有意に高いことを証明した。しかし、Mth1欠損による自然突然変異率の上昇は野生型の2倍程度で、mutT欠損大腸菌における上昇率(約200〜1000倍)に比べると非常に低くかった。そこでMTH1の他に同様な機能をもつ蛋白質があり、それがMTH1の機能を補完しているという仮説に基づいて検索を行い、共通するアミノ酸配列の領域を持ち、かつその産物が8-oxo-dGTP分解活性を持つタンパク質をいくつか見出した。これらのタンパク質は過剰発現により大腸菌mutT変異株が示す高自然突然変異率も抑圧した。以上の結果より我々の作業仮説の正しさが証明されたので、今後はこれらの蛋白質の機能をより詳細に検討してゆきたい。
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