ニワトリDT40細胞の抗体遺伝子座における遺伝子組換えの制御機構をクロマチンレベルで解析した。組換え活性の異なる対立遺伝子間での組換え・転写活性の相異に着目し、両対立遺伝子間でクロマチン構造やヒストンアセチル化レベルを比較した。その結果、遺伝子変換の活動度とDNA近接性・ヒストンアセチル化レベルの間に相関を認めた。また、細胞をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAで処理し、抗体遺伝子座における組換えや転写を調べ、TSA処理による遺伝子変換頻度の大幅な上昇を検出した。この現象と磁気ビーズに固定した抗原を用いて、迅速にモノクローナル抗体を作製する手法を開発した(Nature Biotech.2005)。 抗体遺伝子座における組換え活性は、転写活性と相関を示したが、ヒストンアセチル化は活性型・不活性型対立遺伝子双方で昂進しており、ヒストンアセチル化レベルとは相関が見られなかった。そこで、組換えと転写の関係を調べる目的で、誘導可能な転写プロモーターを上流に持つ組換えマーカー遺伝子(テトラサイクリン誘導プロモーター配列を挟む形で配置した不完全な緑色蛍光タンパク質(eGFP)および青色蛍光タンパク質(eCFP)遺伝子、その下流に核マトリックス結合配列と抗体遺伝子座の3'エンハンサー配列を連結したもの)をDT40の染色体に挿入し、ドキシサイクリン非存在下で培養を行った。組換え体検出は、FACSによる蛍光強度測定でより蛍光強度の強いeGFPの蛍光を発する細胞集団の出現頻度を測定して行った。その結果、転写誘導5日後には全く観察されなかったeGFP発現細胞が0.3%程度出現した。これらの細胞の抗体遺伝子DM配列から相同組換えの誘導的活性化を確認し、ニワトリ抗体遺伝子座などの相同組換え活性化には転写活性化が重要であることを見出した。この系は新機能遺伝子の創製に応用可能である。
|