EGFファミリーに属する増殖因子HB-EGFは、膜結合型として合成された後、細胞表面でプロテアーゼによる切断を受け分泌型へと転換される。HB-EGFの生理的機能及びその膜型から分泌型への転換機構の意義を解明するため、我々は、HB-EGF KOマウス(HB^<del>)、切断を受けない変異HB-EGFを発現するノックインマウス(HB^<uc>)、あるいは膜貫通部位を欠失した変異HB-EGFを発現するノックインマウス(HB^<Δtm>)をそれぞれ作製・解析した。その結果、HB^<del>及びHB^<uc>ホモマウスではともに心室拡張を伴った心機能不全と心臓弁の肥厚を呈したことから、マウスの正常な心臓の発生と機能にとって分泌型HB-EGFの生成が必須であることがわかった。さらに、HB^<Δtm>マウスはヘテロで、皮膚・心室の著しい肥厚などの致死的な組織過形成異常を呈したことから、生体内ではHB-EGFの切断は厳密に制御されており、このステップがHB-EGFの活性発現を制御する重要な機構であることが明らかとなった。 一方、従来からHB-EGFの表皮細胞における機能が示唆されていたが、HB^<del>及びHB^<uc>マウスにおいて皮膚形態形成には異常を認めなかった。そこで皮膚再生過程におけるHB-EGFの機能解析を行った。成獣マウスの定常状態の表皮ではHB-EGFはほとんど発現していなかったが、レチノイン酸による肥厚誘導表皮や創傷後の表皮細胞にはその発現が強く誘導された。表皮基底細胞特異的にHB-EGFを欠失させたマウス(Hb^<del>-K5-Cre)、HB^<uc>マウス、および正常型HB-EGF cDNAノックインマウス(HB^<lox>)間でレチノイン酸誘導後の表皮細胞の増殖を比較したところ、Hb^<del>-K5-CreマウスとHB^<uc>マウスでは、HB^<lox>マウスに比べて増殖が抑制されていた。創傷治癒過程において、同様の比較を行ったところ、HB^<del>-K5-CreマウスとHB^<uc>マウスでの表皮の再生はHB^<lox>マウスに比べて遅延していた。したがって、表皮細胞の増殖・再生過程には分泌型HB-EGFが機能していることが明らかとなった。
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