細胞がインテグリンを介して細胞外マトリックス(ECM)に接着することによって、細胞の運動、増殖、分化または生存に関わる様々シグナルを伝達することが知られている。これまでのインテグリンの研究では、フィブロネクチン(FN)への接着によってインテグリンα5β1から伝達されるシグナルの解析に重点が置かれてきた。しかし、FNを用いた研究だけでは、インテグリンを介する多様なシグナル伝達のごく一面しか捉えることができない。インテグリンα3β1は上皮細胞に最も高発現するインテグリンであり、その主要リガンドであるラミニンα5鎖を含むラミニン-10/11(LN-10/11)は成体基底膜において最も広範囲に発現している。本研究は、基底膜の主要接着分子であるLN-10/11からα3β1を介して伝達されるシグナルが細胞運動・増殖・生存にどのように関わるかを調べた。その結果、1)LN-10/11への接着はPI 3-kinase/Akt経路を強く活性化し、無血清培養条件下で誘導したアポトーシスを強く抑制した;2)インテグリンα3β1を介するLN-10/11への接着はFAKよりもp130Casを選択的にリン酸化し、Racを活性化することによって細胞に強く遊走能を持たせた;3)LN-10/11に接着した細胞の強く運動能がECM分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性化と深く関わることが見出し、他のECMよりラミニン-10/11やラミニン-5に接着した細胞におけるMMP-2の産生が多く誘導された;4)またインテグリンのアスパラギン型糖鎖構造を改変することによって、インテグリンおよび増殖因子受容体の機能が選択的に制御されることが明かとなった。このようなECMに依存したインテグリンを介して伝達されるシグナルは上皮細胞の生存・分化・癌化の過程に深く関与している可能性がある。
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