研究概要 |
本研究の目的は,哺乳動物細胞に極めて近い細胞内情報伝達系をもつ分裂酵母モデル系を用いて免疫抑制薬の標的分子でもある蛋白質脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを介するシグナル伝達経路を解明することである。研究代表者らは<細胞増殖に活性型のCNを必須とする分裂酵母変異体(免疫抑制薬に感受性を示す):its変異体>の取得と機能解析を行ってきた。本年度はits5変異体およびits10変異体についての解析結果を報告する。 1)its5変異体の原因遺伝子は低分子量GTP結合蛋白質rabファミリーに属するypt3をコードしており,種を越えて高度に保存されている。its5変異体では異常なゴルジおよび分泌小胞が蓄積し、ItsがGolg及びpost-Golgiのステップで細胞内輸送に関与していることが明らかとなった。GFP-Its5はアクチン依存性に細胞の成長端及び中隔に局在した。また、its5変異体は高温あるいはFK506が存在すると細胞質分裂の以上を示す。以上の結果から,カルシニューリンと低分子量GTP結合蛋白質Ypt3は協同的に分裂,酵母の細胞質分裂細胞内輸送の維持に関与していることが示唆された。 2)its10変異体の原因遺伝子はSeptation Initiation Network(SlN)の構成因子であるCdc7 kinaseをコードしている。cdc7変異体はCNの活性を抑制すると,多核だが中隔を形成できないSIN欠損(septation initiation defective (sid))の表現型が増悪した。他のSINの構成因子であるcdc11やcdc14の変異体も同様の表現型を示した。さらにCNの構成的活性型を発現するとこれらの変異体のsid表現型が改善した。以上の結果から,CNは細胞質分裂においてSINの制御を含めて複数のステップに関与することが示唆された。
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