細胞自身の構成成分分解は、主にオートファジーにより細胞質やオルガネラの一部がリソソームに運び込まれることで遂行される。オートファジーは日常的な代謝回転に寄与するだけではなく、状況に応じて著しく促進されて大規模な細胞質・オルガネラの分解を行うことで、細胞・組織の再編成を臨機応変に行うと考えられる。また各種の疾患においてオートファジーの亢進が観察されており、その病理的な意義が注目されている。本研究では、未知の部分の多いオートファジーについて、その分子機構の解析を行うと同時に、発生分化・疾患におけるその役割を探ることを目的とした。分子機構については、1)Atg5とAtg12の共有結合反応を触媒する酵素Atg10を同定、2)エンドソーム〜オートファゴソーム間輸送が、オートファゴソームとリソソームの融合に必須であることを示し、3)Atg5とAtg12の共有結合体が、約800kDaの巨大分子複合体を作ることを明らかにし、その成分として新規のタンパク質Atg16Lを同定、4)オートファゴソームへの局在化に際し、LC3がフォスファチジルエタノールアミンと共有結合している証拠を得、LC3のホモログであるGABARAPとGATE16もオートファゴソームに結合することを示した。発生・分化については、GFP-LC3を全身に発現するトランスジェニックマウスを作成し、各組織におけるオートファジー誘導を容易に検出できるようにした。さらに、疾患の解析において、オートファジーの新しい機能を発見した。すなわち、細胞内に蓄積凝集し変性疾患を起こす延長ポリグルタミン鎖とα_1アンチトリプシンのZ変異体の分解と、細胞内に侵入したある病原性細菌の死滅にオートファジーが働いていた。また、SARSの原因となるコロナウイルスの仲間であるマウス肝炎ウイルスが、細胞内で増殖する際オートファゴソームを利用していることも判明した。
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