近年我々はホヤ卵内で局在するRNAを多数単離してきた。モザイク卵として知られるホヤ胚において、実際にRNAという局在機能分子が見出されたことは特筆に値する。解析した6つのRNAが局在するのは植物極側後方のポストプラズム領域で、胚の前後軸形成・不等分裂などに必須とされていることから、これらをポストプラズミックRNAと名づけた。詳細な分布パターンの解析をしたところ、その局在経路の違いから、それらがtypeIとIIのふたつのグループに分類されることを明らかにした。標識した合成RNAの未受精卵への顕微注入実験から、局在には両typeともに3'UTRの一部が必要十分であることが示唆された。そこには特に保存されている配列は見出されなかったため、各RNAの3'UTRを含む標識RNAの顕微注入によって50塩基程度まで配列を絞り込んだ。同時に、その責任配列の二次構造を解析し、どのような配列が局在を制御しているのかを明らかにしつつある。さらにその領域に結合するトランスの因子を単離精製することによって、ホヤの卵や胚におけるRNAの局在に関わる分子機構を明らかにするべく、判明したシス配列を用いたゲルシフト分析・East-Western分析・UVクロスリンク分析などを駆使して、卵内のタンパク質の中から配列特異的に結合するトランス因子を検出する系を確立し、そのタンパク質の性状を明らかにするとともに、そのタンパク質の生化学的単離精製やそのcDNAの単離を行っている。一方、電子顕微鏡を用いて、局在RNAは超微細構造上でタイプ毎に異なる分布をしていることが観察された。これらのことから、ホヤの卵内および初期胚内でRNAが局在する機構について総合的な知見が得られると思われる。
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