NAT1はマウス肝癌モデルから癌抑制遺伝子の候補として同定した蛋白質で、翻訳開始因子eIF4Gと30%程度の相同性を有する。NAT1は初期発生、細胞分化そして細胞周期調節に必須である蛋白質の翻訳調節を行っていると考えられている。NAT1によって翻訳調節されているmRNAを同定するために、既知IRES配列の活性を正常ES細胞とNAT1遺伝子破壊細胞の間で比べ、活性がNAT1に依存しているものを探索している。これまでに約40の哺乳類mRNAにおいてIRESの存在が報告されており、転写因子c-mycやNkx6.1、増殖因子FGF2やPDGF、そしてp27kip1などが含まれる。これらのIRES配列をPCRにて増幅し、レポーター遺伝子に挿入した。これは単一プロモーターの下流にRenillaluciferase(RLuc)とfirefly luciferase(FLuc)の2つのcDNAを直列に並べ、その間に目的のIRES配列を挿入するものである。RLucは通常通り翻訳され、FLucはIRES依存的に翻訳されるので、FLuc/RLuc値はIRES活性の指標となる。このレポーター遺伝子を正常ES細胞およびNAT1遺伝子ホモ変異細胞に導入し、IRES活性を比較している。IRES活性がホモ変異細胞で低下していれば、NAT1がそのIRES翻訳に関与していると考えられる。これまでにいくつかの候補を同定しており、今後それらについてホモ変異細胞における蛋白質量、mRNA量そして蛋白合成量を測定し、実際にNAT1により翻訳調節されていることを確認する。
|