NAT1は癌抑制遺伝子の候補として同定した蛋白質で、翻訳開始因子eIF4GのC末側2/3[以下4G(C)]に類似している。NAT1遺伝子ホモ変異マウスは原腸形成期に致死となり、ホモ変異ES細胞は、分化能力が著しく障害されていた。eIF4Gは翻訳開始に必要な因子を結合し機能を統合するアダプター因子である。したがってNAT1もアダプター因子として機能している可能性が高い。そこで本年度はNAT1およびeIF4Gと結合する蛋白質およびRNAを同定し、比較することを目標とした。そのためにTandem affinity purification(TAP)法を用いた。TAP法は目的蛋白質にプロテインAおよびカルモデュリン結合蛋白(CBP)の2つのタッグを融合し、IgGとカルモデュリンの2種類のビーズによりアフィニティ精製を2回繰り返し、目的蛋白質を含む複合体を高純度に回収する方法である。NAT1-TAPまたはeIF4G-TAPをES細胞で発現させ、TAP精製物を電気泳動(SDS-PAGE)で分離し銀染色を行った結果、NAT1とeIF4Gが高純度に精製されていることを確認した。共精製されているバンドに含まれる蛋白質を質量分析(LC/MS/MS)により解析した結果、NAT1とeIF4Gの両方に他の翻訳開始因子であるeIF4Aが結合していた。したがってNAT1はeIF4Gと4Aへの結合を競合する結果、蛋白質翻訳の調節を行っている可能性が示唆された。またTAP抽出物よりRNAを精製し、DNAマイクロアレーによりNAT1と4G(C)に結合するRNAを比較検討した。その結果、NAT1と特異的に結合している可能性のあるRNAの候補がいくつか同定されている。
|