NAT1は翻訳開始因子eIF4Gに類似する蛋白質で、癌抑制遺伝子の候補として同定された。これまでの研究でNAT1は特定mRNAの翻訳調節に関与していることが示唆されている。本研究においては、NAT1の標的である可能性の高いIRES配列を有するmRNAについて、正常細胞とNAT1遺伝子欠損細胞の間で翻訳レベルを比較し、真にNAT1による調節を受けているかどうかを検討した。CDKインヒビターであるp27Kip1が、正常細胞では未分化状態では低発現で、レチノイン酸刺激により誘導されるのに対して、NAT1欠損ES細胞においては、未分化状態は高発現しているが、レチノイン酸刺激によってはそれ以上増加しないことがわかった。またp27Kip1のIRES依存的翻訳をレポーター遺伝子を用いて解析したところ、正常細胞では未分化状態で低く、レチノイン酸により促進したのに対して、NAT1欠損ES細胞では未分化状態で高く、レチノイン酸により反応しなかった。したがってNAT1はp27Kip1のIRES依存的翻訳を負に制御していると考えられた。またモデル動物におけるNAT1相同遺伝子の探索を行った結果、酵母や線虫には存在しないが、ショウジョウバエ以降においては相同遺伝子の存在する事を明らかにした。驚くべきことにショウジョウバエ、ホヤ、カエル、ゼブラフィッシュ、にわとり、哺乳類のすべてのNAT1がATG以外の翻訳開始コドンを使っていることがわかった。またショウジョウバエにおけるNAT1の機能を変異体を用いて調べた結果、発生における細胞死に関与している可能性が示唆された。
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